自宅プラド美術館 #01オフィシャルサイト徹底解説 ティッツァーノ・エルグレコ・ティントレット
絵を見る時は、一切の固定観念なく絵の前にただ立ち、
「美しい」「素晴らしい」「何か惹かれる」を感じることが出来たら一番いいんです。しかし、感受性に乏しい私はどうしても「何で」「誰が」「誰のために」なんて余計な事を知りたがり、色々調べて納得いく答えを作りたがる。ま、仕方がないそういう性分ですから。そうやって見ていくうちに美術館が好きになった。そんな理由があってもいいはず。
今回は膨大な数の絵画をどう見るか。もちろん全部見るのは不可能に近い。私は絵の先生でも何でもないため絵自体を解説するのではなく、時代背景と画家達の関係性という面から見る順番を解説していこうと思います。ぜひ、プラド美術館公式ページを開きながら見て下さい。
前回のブログ↑↑↑で、【1900年中期までの絵画=プラド美術館】、【現代ア-ト=ソフィア美術館】と案内しました。究極に分かりやすく画家の職業的立ち位置から言うと
【プラド美術館】は注文者>画家
主に注文画で画家は自分の意志で絵を描くことはなく、誰かの注文に応じて描き報酬を貰う。主な注文者は国王や教会、貴族。内容は主に宗教画、肖像画、神話。
【ソフィア美術館】は画家>鑑賞者
画家が自由な発想で描き、見る側がそれに価値を付けて購入するようになる。絵の解説や意味は重要ではない。現代アート初期はシュルレアリスム(超現実主義)と言って、描かれる対象物は目で見えている物だけではなく、頭の中で見えている物が多くなる。鑑賞者が画家は何を表現しているのかを考えるようになる。
ということで、プラド美術館の作品は「誰が」「何のために」が非常に色濃く出ている。権力者に気に入られた者のみがのし上がる!この辺りが私を虜にするのです。さて、実際に絵画を見ながら進めましょうhttps://www.museodelprado.es/en
公式ページを開き、絵画解説左下の「SEE WORK ON THE MUSEUM WEBSITE」をクリック。絵を拡大して楽しんで下さい。サイトの使い方はこちら↓↓
青文字→絵のタイトル。コピペして公式ページ検索欄に入れて下さい。英語表記
赤文字→登場する人物の名前。人間関係をより一層分かりやすくしています。
画家1 1500年頃~ イタリア絵画ヴェネツイア派【Tiziano ティツイア-ノ】
国王コレクションに新風をもたらした画家ティッツァーノ。黄金時代の国王2代に渡って宮廷画家を務めた。何が国王の心を掴んだのかを見ていきます。彼はこの後出てくる偉大なる画家達に大きく影響を及ぼした重要な人物です。
【Emperor Charles V at Mühlberg】カール5世騎馬像 1548年 肖像画
スペインハプスブルグ第一番目の国王。
ミュ-ルベルクの戦いでプロテスタントに圧勝した国王の姿をまるで英雄のように描いたティッツァーノ。権力を象徴し政治的意味をしっかり捉え描く事に長けていたんですね。国王のお気に入りの画家でした。
【Philip II Titian】フェリペ2世 1551年 肖像画
カール5世に継ぐ国王フェリペ2世。彼はヒエロニムス•ボスの蒐集家で美術を強く愛した国王。全体像を見て下さい。高価な調度品の前に斜めに立ち、顔はこちらを向いているが一切の感情表現を消し去った無表情。見ている私達とは一線を引いたような描き方。これが今後スペイン王室の公式肖像画構図となります。後に登場するヴェラスケスもティッツァーノに強く影響を受け、同じ構図で国王を描いていきます。


1分で読み取る15世紀から16世紀時代背景
スペイン黄金時代。フィリピン、新大陸、西ヨーロッパの殆どがスペイン国王の手にあった「日の沈まない帝国」と言われた時代。キリスト教「カトリック」が強くなるにつれ、改革を唱える「プロテスタント」が誕生。宗教戦争勃発。華々しく力のあるカトリックこそが真のキリスト教だ!と力を見せていた時代。宗教画がねじれた表現になっていく。
この時代の国王は、スペインハプスブルグ一番目カルロス1世(世界史ではローマ皇帝カール5世)。コロンブスを輩出した偉大なるイサベル女王の孫。続く息子の国王フェリペ2世。2代に渡って美術に強い愛を注いだ国王。国王に気に入られようと世界中の画家が絵を捧げた、それらが美術館コレクションの基盤になっています。
【The Glory】三位一体の栄光 1551年 宗教画
キリスト教において三位一体は「神」「神の子イエス」「精霊の象徴の鳩」。ここに、なんと国王とその家族が入り込んだというまさに権力の象徴。晩年の国王カール5世がティッツァーノに注文した作品。雲の下、跪き手を合わせる国王。そのすぐ後ろに妻イサベル、そのさらに後ろに後継者である皇太子フェリペ2世まで描いた。「聖書に忠実」などと言っている画家はのし上がれない、やはりティッツァーノ只者ではなかった。


雲の上、珍しく青い服を着た神と神の子イエス、さらに青いベールを着たマリア(マリアは常に青いべ—ル)が後ろを向いて振り返るような形で描かれています。下方面には旧約聖書のモーゼ、ノア、ダビデがそれぞれ各シンボルを持って描かれ、まさにオールスタ-登場。かなり迫力のある1枚。
80年の時を隔てた名作【Adam and Eve】アダムとイブ
●ティッツァーノ(1550年イタリア)と ●ルーベンス(1628フランドル)
ティッツァーノがフェリペ2世のために描いた「アダムとイブ」を80年後にルーベンスが模写した作品。
2枚の絵を並べて拡大して見て欲しい。どちらが正解ではなく違いがはっきり見えてくる。そこで何を思うかは自由。
①禁断のリンゴをイブに誘惑している蛇と天使の顔。
ティッツァーノ→天使の顔がアダムに向いている
ルーベンス→イブを誘惑するように顔を向けている。
②アダムの体制。
ティッツァーノ→アダムは天使を見て驚いたようにイブから離れて後ろに倒れそうな体制。
ルーベンス→イブをしっかり見つめ前のめりになり、実を取ってはいけないと悟っているかのような体制。
この偉大なる国籍の違う画家達がスペインという国を通して絵と絵が出会った瞬間を見ることが出来るのもこの美術館の最大の魅力。実際にプラド美術館内でも2枚並べて展示してあるところが震えます。
さて、師匠ティッツァーノが大成功となれば弟子たちも動き出す。
画家2 1500年頃~イタリア絵画ヴェネツイア派【Tintoretto ティントレット】
本名ヤコポ・ロブスティ。TINTOとは、絵具とか染物と言う意味です。染物屋の家に生まれた事からTintorettoというニックネームで呼ばれるようになる。さて、この画家はティッツァーノの弟子の一人です。非常に面白い感性で絵を描くため、この当時は「変わり者」なんて言われていました。
【The Washing of the Feet】使徒の足を洗うキリスト 1548年 宗教画
実際は大きな絵で2m×5.3m。最後の晩餐の前に弟子達の足を洗ったイエスを描いた宗教画でも同じみの場面。背景に水路やゴンドラを描きヴェネツイアの風景にしたり、真ん中に犬を描いて日常的な場面を描いたりと他の画家とは違った視点で描いています。正面に座り画面全体を見て下さい。画面右下の跪いている男性がイエス。12人の弟子たちがバラバラと描かれ、どこが中心か分かりにくい絵ですよね。この絵は教会からの注文画でした。ティントレットは聖職者たちがこの絵に対して右側に座る事を知っていた。絵を正面に見て、右側に動いてもう一度見て下さい。たちまちイエスが中心となり、12使徒達が後ろ側に居ることが分かります。さらに奥行がずっと伸びます。このような、少し目線を外した斬新な描き方は当時の国王フェリペ2世には好まれませんでした。宗教戦争の中、国王は「カトリックとは何ぞや」の絵を必要としていたのです。ティントレットが見直されるのはルーベンスが登場する100年後のこと。その時代と国王に合う画家だけが高い評価を受けるのです。
画家3 1540年頃~ ギリシャ生まれのスペイン画家【EL Greco エル・グレコ】
本名ドメニコス・テオトコプ-ロス。ギリシャのクレタ島で生まれました。当時ギリシャ人画家は珍しく、あのギリシャ人「EL Greco」と呼ばれるようになる。ギリシャでビザンチン様式を学んだグレコは、ヴェネツイアに渡りティッツァーノの工房に身を置きます。さらにローマでルネサンスに触れたグレコは世界の頂点スペインに目を向けます。何とか国王フェリペ2世から注文を受けようと38歳頃やって来たのです。
【The Holy Trinity】聖三位一体 1577年 宗教画
エル・グレコがスペインに来て間もなく描いたという作品。ローマで触れたミケランジェロの彫刻「ピエタ」に強く影響されたとされ、よく似た構図で描かれたイエスが特徴的。グレコならではの大胆な色使いと表現がしっかり現れた初期の作品。当時の宗教改革の影響を大きく受けたのでしょう、「聖書」の世界を描く時、グレコはあっと驚くような動的で大胆な世界観を表現しています。
【The Nobleman with his Hand on his Chest】胸に手を置く騎士 1580年 肖像画
一方、肖像画は非常に静かです。原色を殆ど使わず、目の前の人をじっと見つめて描いたんだなと感じます。全体を見て下さい。暗闇の中からこの騎士の内面が見えてきます。寡黙、紳士、高貴。
【The Annunciation】受胎告知 1597年 宗教画
グレコが描いた受胎告知は15点近くあると言われています。その1点はなんと、日本の岡山倉敷大原美術館にあるから凄い。
宗教画の中でも多くの画家が手掛ける人気のテーマ「受胎告知」。年表を1500年代に合わせ、検索に「The Annunciation」と打つと、多くの作品が出てきます。↓
宗教画は、持っている物、衣装、花などに決め事があるのはご存じでしょうか。聖母マリアは「青いベールと赤い服」、「鍵を持つ聖人」はペトロ、「百合の花」は潔白を意味するなど見ていくと大変興味深いのです。さて、この「受胎告知」は古い物から見て行ってもみんな立ち位置が一緒です。この年表にはない、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品でさえも同じなんです。誰のか!大天使ガブリエルとマリアです。殆どの画家は右に「マリア」左に「天使」を描きます。そして、この場面は「厳かで、静かな秘密の告知の場面」として描く中、グレコは完全に違います。まるで、現代のアニメーションのような描き方で動的に、劇的に、刺激的にその場面を描き、マリアと天使の立ち位置を他の画家とは真逆に表現したのです。自分の意見を貫くグレコは何度も教会ともぶつかり裁判にまでなった画家です。
この時代に彼は注文を受ける画家ではなく、自分のこだわりを貫いた歴とした「アーティスト」だったのだと私は思います。独特の表現法により、フェリペ2世の目には掛かりませんでした。彼の絵は19世紀から20世記、ピカソなど現代アーティスト達が評価したことで見直されるんですエル・グレコは時代を先取りし過ぎていたんですね。公式ページにコレクションが沢山あるのでじっくり楽しんでみて下さい。
エル・グレコ こだわりの【手】の表現
エル・グレコは中指と薬指を重ねた形が手を一番美しく見せると考えていました。このポーズは三位一体を表すとも言われています。



本日はここまで…。
まとめ
15.16世紀はスペイン黄金時代。国王の力が強くカトリック教会と強く結び付くことにより、画家に求められていたことは「権力の象徴」「偉大なるカトリック」「壮大な表現の美」だったのではないでしょうか。
次回は17世紀。黄金時代は長く続かず、衰退していく王国。ここでベラスケスとルーベンス登場です。二人の関係とティッツァーノが及ぼした影響などを見ながら解説したいと思います。
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